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奇妙礼太郎の、メジャーからはセカンド・アルバムになる『More Music』は、奇妙礼太郎が大阪時代から親交のあったふたり、前作『YOU ARE SEXY』にも2曲提供した田渕徹(たぶちとおる)と三日月スープやくるりでの活動でも知られる吉田省念(よしだしょうねん)との、3人体制で制作された。全11曲中、田渕徹は4曲の作詞作曲、吉田省念は4曲の作詞作曲と10曲のサウンド・プロデュース。
曲ごとに、ジャズやブルース、ボッサ、60年代のロックンロールなどのルーツ・ミュージック、ファンク等を基調とした本作は、そういう音楽性でありながら、過去の奇妙礼太郎が歌唱して来た作品──ソロも、アニメーションズも、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団も、天才バンドも含めて──の中でおそらくもっとも、日本におけるポップ・ミュージックとしての強度を持ったアルバムになっている。それと同時に、稀代のシンガーである奇妙礼太郎の歌そのものの、あらゆる面を曲ごとに引き出すアルバムにも仕上がっている。とりあえず田渕徹が書き、吉田省念がアレンジし演奏した1曲目「エロい関係」でまずびっくりするだろうが(というか僕はそうでした)、その驚きがアルバムの最後まで続く。つまり、相当な作品なのだと思う。
なお、アルバムのラストの「水面の輪舞曲」は、9月14日から公開の映画『愛しのアイリーン』の主題歌として田渕徹が書き、奇妙礼太郎とふたりでレコーディングされた。観終わるとイスから立てなくなるくらいの重い衝撃に満ちたこの映画の最後に聴くと、あまりのハマりっぷりに、よりいっそう立てなくなる。
左から吉田省念、奇妙礼太郎、田渕徹

自分が歌うと照れる言葉を奇妙に託す感じですかね。 「ほんまはええ言葉やから代わりに言って」みたいな(田渕徹)

──まず、この3人で作ろうということになった経緯から教えていただけますか。


奇妙礼太郎:僕、ひとりで家にいても、何も進まないんで。アルバムをそろそろやらなな、どうしようかな、と思ってたんですけど、その時に映画の主題歌の仕事が来て。自分で書くって感じじゃないなあと思って、田渕くんに「一緒にやりませんか?」みたいな感じで連絡して。演奏とアレンジはPirates Canoeっていう京都のバンドにお願いして。それで映画の曲ができて。ほんで、この作り方楽しいな、この感じで、田渕くんと2人でアルバム作るのいいなあと思って、なんか……そのへんまで覚えてますけど。

田渕徹吉田省念:(笑)。

奇妙:んで……ふたりでどうやって録るか考え出して。で、省念くんと一緒に仕事したいなってずっと思ってたから、いい機会やなと思って、連絡して。

──『愛しのアイリーン』の曲を、自分じゃなくて田渕さんが書いた方がいいと思ったのは?


奇妙:原作のマンガを読んで、田渕くんの曲、すごい合うなあと思って。新しく書かなくても、もうある田渕くんの曲から選んで当てはめるのでもいいなと思うぐらい、ぴったりな気がしたんですけど。

田渕:新しく書き下ろしましたけどね。僕、ちょうど2017年から、単身赴任で東京に出て来とって。それでよく奇妙くんに会っとったし、一緒に作るってなってからも、納期まで2週間ぐらいしかなかったから、週3ぐらいで会うて、スタジオ入って、僕が作って、奇妙くんが歌ってみて、「ここ違うなあ」とか言いながら歌詞を修正したりとか。ギュッと一緒におって作ったって感じで。アルバムもそんな感じで作ったらおもしろそうやな、って話になったんかな。

奇妙:うん、うん。

田渕:その中でサウンド・デザインというか、音楽監督どうしよう、みたいな打ち合わせをしてた時に、僕も省念くんがいいなと思ってて。その場でマネージャーが「じゃあ電話しましょう」言うて電話したら、省念くん、すぐ出てくれて。

吉田:電波悪くてね(笑)。

奇妙:山のね、上やから。

吉田:だいぶ聞き取れなくて。僕はちょうど自分のアルバムの制作をやってたんですよ。そういうのもあって、エンジンがかかってて、あったまってる状態やったから。確かその日に、田渕くんが書いた曲と、奇妙くんが書いた曲、数曲デモを聴かしてもらって。「なるほど!」と思って、まず「エロい関係」っていう今回のリード曲から手をつけて。僕なりのやりたいアレンジの感じがその時にあったので、それをあの曲に合わせて作ってみたんですね。それですぐに聴いてもらったら、反応がよかったんで。「あ、じゃあアルバム、できるんじゃないでしょうか」と。

奇妙:まず田渕くんの曲が来て、その曲を理解しようと思って、弾き語りのライブで歌ったりして。それを省念くんに渡すと、楽器がブワーッて全部入った状態でデモが返って来て、毎回「うわあ!」ってなって。

田渕:なっとったなあ。

奇妙:スタジオで笑ってまうんです。「うわ、すごい!」って。

田渕:で、「これでええやん、もう。レコーディングとかせんで、このまま出したらええんちゃうん?」って言うとったな。

奇妙:それに歌を入れるっていうのがすごい楽しくて。なんか、元気出ました。自分で曲を作るってなると、「この曲モータウン風にしたいな」と思っても、自分でPCで打ち込んだりとか、自分で演奏したりとか、僕、できないんで。そういうことが全部解決するんやなあ、すごいなあ、と思ってました。

──楽器の演奏は生?


吉田:生ですね。ほとんど僕です。

──田渕さん、自分が歌うのではない、奇妙礼太郎が歌うんだというところで、書く曲の感じって変わります?


田渕:変わりますね。自分やったらこの単語使わんな、みたいなんとかを、人が歌うってなったらちょっと使ってみようか、とか。

奇妙:え、どれ? どれ?

田渕:たとえば前作やったら「君はセクシー」とか。自分で絶対「セクシー」とか歌わんし。このアルバムの曲も……自分がええと思ってる言葉でも、自分が歌うと照れる言葉とかあるじゃないですか。そういうのを奇妙に託す感じですかね。「ほんまはええ言葉やから代わりに言って」みたいな。

吉田:このアルバムで言うと、「強靭な肉体」と「セカンドライン」という曲は、自分の新しいアルバムでやろうと思って、オケもちょっとだけ取り掛かってた曲なんですよ。だから僕は、特に奇妙くんが歌うってことを意識して作るってことはなかったんですよね。田渕くんの曲っていうのは、奇妙くんにすごくフィットしてるイメージがあって。だから自分の曲は、アルバムの中でちょっとまた違うバラエティ感を出せたらいいんじゃないかな、っていうところで。

京都と東京で、住んでる場所が違うのも、いい作用になったような気がします(吉田省念)

──この制作で、「プロデューサーとしての俺はこうなのか」という発見もありました?


吉田:プロデューサーという立場って、普通は演奏って自分ではやらないと思うんですよ。人に演奏さしていろいろ言ったりとか、エンジニアに文句言ったりとか、肩にカーディガンかけたりとか。

奇妙・田渕:はははは!

吉田:けど僕は、自分のスタジオで自分で演奏して、バンド・サウンドで作っていくっていうやり方に、なじみすぎていて。だから、プロデューサーとしての客観性がどこまであるかっていったら、ちょっとわからないですけど、自分の関わり方やったら、これがベストやったんかなと思って。もともと自分の作品の制作もしてた時期やったのもあるんですけど、そことの区別とかもなく、もう自分の作品ぐらいの気持ちで臨みましたね。
でも、奇妙くんがボーカル入れしたり、田渕くんが仮で歌入れしたりして、コミュニケーションしてるうちに、自分が演奏してることが一回そこでなくなって。客観的に聴けて、俯瞰して曲のアレンジとかを考えられて。京都と東京で、住んでる場所が違うのも、いい作用になったような気がします。

田渕:最初に「エロい関係」を聴いた時の驚きというか、まさかのアレンジで。もっと静かな、ゆっくりな曲やったんですけど、大人のエロさみたいなんが出てる、イケイケのアレンジで──。

奇妙:(笑)「大人のエロさ」って何!?

田渕:初めて言うたわ、人生で(笑)。でも、聴いて「吉田省念、ぶっこんで来よったな!」みたいな──。

奇妙:「うわ!」ってなったよね。

田渕:びっくりした。で、この曲から始まって、オケとかも短いスパンでばんばん上げて来てくれて。それを持ってふたりでスタジオ入って歌録って、省念くんに送り返す、っていう作業をずっとやってました。

──このアルバムは、これまでの奇妙礼太郎の作品の中で、いちばんポップスに近いというか、いちばん聴く人を選ばない気がするんです。ひらたく言うと、売れそう。


奇妙:ええー? ……「ええー?」って言うのおかしいな、俺が(笑)。

田渕吉田:はははは。

奇妙:いちばんあかんやん、俺が「えー?」って言うたら。「そうなんすよ!」って言えよな。

田渕:1曲1曲を省念くんがていねいに仕上げてくれて、歌詞もちゃんと練って作って、1曲1曲をていねいに作ってる感じはあったなと思います。

吉田:自分を誘ってもらったから、これまでの奇妙くんと違うファンというか、違う音楽を聴いてる人とかも好きになるきっかけになればいいな、っていう気持ちはありました。ジャズとかブルースとかのルーツ・ミュージックの感じで作ってますけど、それも、ポップスっていう解釈の中でやっていたのはあるかもしれないです。
まあ、単純に、何回も聴けるもんにしたかったというか。一回聴いておもしろい!っていうもんて、僕も大好きな音楽のうちのひとつなんですけど、何回も聴けるものって、またちょっと違う次元にあったりすると思うので。そういうところに行けたらいいなあ、という。

田渕:奇妙、僕と全然違う発想を持ってるんで。たとえば「東京23区」は、僕の中で決まってたサビの歌詞があったんですけど、「これ、もっと違う言い方できへんかなあ」って。

奇妙:言ってた?

田渕:うん。「この街は生まれ変わる」っていう歌詞やったんですけど、その「生まれ変わる」っていうのは、音とか歌い方とかでもう表してるから、サビは違う歌詞の方がいい、と。僕は、歌詞で全部言いすぎちゃうクセがあるんで。それを抜く作業をしてくれましたね。言葉グーッて詰まってるところを、ポンポンて外していく。そうすると、その歌詞の構図がすっきりして、「あ、ほんまや、そこ抜いた方がいいな」とか。すごい勉強になったいうか、俺も真似しよ、みたいなところはありましたね。

なんか、見つけましたね。この感じで生きていこうと思ってます(奇妙)

奇妙:楽しかったですね。「同じ月を見ている」とかは、歌詞書きながら録音とかしてたんですけど、ひとりやと全然歌詞浮かばへんかったのが、スタジオで適当にウワーッて歌ったやつを見て、いいなと思うとこだけ残して、空いたとこに別の言葉をはめてみよ、みたいな。そういう作業をひとりでやっても、全然僕はできないんですよ。スタジオに入って、相手がおることで、どんどん出て来る。
それが、自分がものを作る時に絶対必要なことなんやな、って、すごい思いました。発見っていうか、なんとなくわかってたんですけど。でもほんとに、すごい自由になりました。ひとりで「はい、作ってください」って言われても、全然なんか、脳味噌が止まってしまうんですよね。

──コミュニケーションがないから?


奇妙:たぶんそうなんですよね。人によると思うんですけどね、自分は今のところそうやな、と思って。すごい、「あ、いい方法やな」って思ってます。

田渕:ふたりでスタジオ入って、奇妙が適当にコードに乗せて歌った歌詞を、僕がバーッと打ち込んで。で、「こんなんやけど、どう?」ってパソコンを見せながら。「ここちょっといらんな」って削除して、また打ち込んで、みたいなやりかたしとったな。

奇妙:うん。その歌詞を見てたら2番を思いついたりして。すごいよかったな。あと、朝起きた時になんか思いついたら、3人のグループメールに急に歌詞を送りつけたり。

田渕:(笑)そう、謎の歌詞が来る。

奇妙:ひとりで自分のメモに残しても、二度と見ないんですけど。そういうのですごい、根本的に助かってるっていうか。なんか、見つけましたね。

──音楽の作り方を?


奇妙:もう、生き方に近いですけど。人の手を借りる覚悟を決めるっていうか。

田渕吉田:はははは。

──前作は中込陽大さんの手を借りて作られましたけども──。


奇妙:前のアルバムは、だから、心中に近いですね。「行かなあかん! やるんや! 飛び込めー!」みたいな感じでスタジオで4日間ぐらい、朝から晩までふたりでウワーッてやった膨大なテープがあって、それを中込くんがていねいに編集してくれたから、あの作品があるっていう感じで。そう思ったらあのアルバムもすごいなあと思うんやけど。

──あれが心中だとしたら今回は?


奇妙:今回は、えー、考えてなかったけど……そうすね、なんですかね。なんかその、この感じで生きていこうと思ってます…………(ふたりに)今後ともよろしくお願いします。

田渕吉田:(笑)。

奇妙:みたいな感じ。あの、だいたい8割ぐらいの曲は出て、編集したり、ライブでひとりでやったりしてた時に、ビルボードのライブがあって。最初は、ビルボードやし、今まである曲と、ジャズのスタンダード・ナンバーとかをやろうと思ってたんですけど、このアルバムの曲、めちゃ早くライブでやりたいなあと思って。録音する前に、ライブで、バンド・サウンドでこれやりたいなあって。で、ビルボードの東京と大阪で、ほとんど全部やったんですけど。最高でしたね。以上です。

吉田:はははは!

田渕:「最高でした」報告(笑)。

奇妙:めちゃくちゃ楽しかったですね。

【作品情報】


奇妙礼太郎
2018年9月26日リリース
メジャー2nd アルバム「More Music」
全11曲

[収録曲]
1.エロい関係
2.強靭な肉体
3.セカンドライン
4.眠れないなぁ
5.ロックンロールコンプレックス
6.東京23区
7.穴
8.星
9.More Music
10.同じ月を見ている
11.水面の輪舞曲

価格 ¥2,800-(税抜)
WMJ / unBORDE


【ツアー情報】


奇妙礼太郎ツアー2018 “9”
【バンドメンバー】
Gt.潮田雄一
Ba.村田シゲ(□□□)
Dr.松浦大樹
Key.中込陽大

10月26日(金) 高松DIME
開場18:30 開演19:00
問>DUKE高松 087-822-2520

10月28日(日) 福岡BEAT STATION
開場17:30 開演18:00
問>BEA 092-712-4221

11月02日(金) 名古屋QUATTRO
開場18:15 開演19:00
問>JAIL HOUSE 052-936-6041

11月03日(土) 梅田QUATTRO
開場17:15 開演18:00
問>GREENS 06-6882-1224

11月04日(日) 広島セカンドクラッチ
開場17:30 開演18:00
問>夢番地広島 082-249-3571

11月09日(金) 仙台MACANA
開場18:30 開演19:00
問>Coolmine 022-292-1789

11月11日(日) 札幌cube garden
開場17:30 開演18:00
問>WESS 011-614-9999

11月18日(日) キネマ倶楽部
開場17:00 開演18:00
問>HOT STUFF 03-5720-9999

<チケット一般発売>
2018年9月1日〜各プレイガイドにて